山中 裕太さん
アイ・シー・ネット株式会社 グローバル事業部 兼 経営戦略部 企画営業室
マネージャー/ 事業リーダー
※本インタビューは、2021年4月に行ったものです。
養われたミクロとマクロの視点で
課題解決に導く事業を生み出す
2014年 大学院国際協力研究科(IDEC)博士課程前期修了
プロフィール:広島大学大学院国際協力研究科教育文化専攻教育開発コースに入学し、ザンビア特別教育プログラムにて2年間ザンビア派遣。2014年国際協力研究科教育文化専攻教育開発コース修了、人事コンサルタント会社を経て、現職。
本インタビューは…2021年4月に行ったもので、所属先はその時点のものです。
現場を知らない机上の批判は通用しないザンビアの学校現場
小学校の教師を目指していた教育学部3年生の頃、将来の生徒たちに世界の現実について話す教師になれればと参加したカンボジアでのインターンでの出来事です。カンボジアで出会ったストリートチルドレンに将来の夢を尋ねると、「学校の先生になりたい」「お医者さんになりたい」「パイロットになりたい」とさまざまな職業を挙げるのですが、いずれも教育を受けることを前提とする職種ばかりでした。教育を受けたいと望みながらもそれが叶わず、夢を果たせない現状を知り、日本との違いを痛感。彼らにどのような支援が可能かと大学院への進学を決め、国際協力について実践と理論の両方を得ることができる広島大学大学院国際協力研究科(現国際教育開発プログラム)に進学しました。
在学中にさまざまな国際協力の現場を経験したいと考え、ザンビア特別教育プログラムに参加。青年海外協力隊として南部アフリカのザンビアの寮生男子高校で生物と数学を指導しました。授業を受け持ち、準備にいそしみながら、クラスの担任として生活指導を行うハードな日々でしたが、合間を縫って自分の研究も進めました。論文や文献で学んだ手法を現場で試行してみたり、逆に現場で経験したことを抽象化したりと、理論と実践を両立できたという手ごたえがあり、充実した時間を過ごせました。
ザンビアの教育現場に身を置いて強く感じたのは、一見すると批判の的になりがちなザンビアの教育現場における指導方法にも、「理」があり、それらを単に外部者としての私が批判するだけでは、何も変わらないということでした。ザンビアでは教師が一方的に生徒に対して話したり、教科書の内容を黒板に書き写し、それをまた生徒がノートに写したり、と「チョーク&トーク」と呼ばれる形式で授業が展開される様子を頻繁に目撃しました。それらは、100名もいるような教室ではなかなか生徒同士でディスカッションさせるということが難しかったり、多くの生徒が教科書を持たない場合に書き写したノートが教科書代わりになるため教科書を写させることをやめられなかったりという理由があります。ある局面だけを切り取って批判をするだけでは意味がなく、問題が立ち現れるその背景や原因についても目を向けないと本質的な解決には結びつかないと強く感じました。それは、現場に身を置きながら研究活動も行うという、「鳥の目と虫の目」を持ちながら様々な地平で物事を捉えることができる「ザンビアプログラム」だからこその経験だったと思います。
社会性と収益性を満たす持続的なソーシャルビジネスの創出
修了後、人事コンサルタント会社に就職して経験を積んだ後、政府やJICAのODAプロジェクトとして途上国の開発援助に携わる開発コンサルタント会社に就職しました。ザンビアで開発コンサルタント会社に勤めている先輩方に出会い、信念を持ちながら楽しそうに仕事に取り組む姿に憧れたからです。現在は、当社が持つ社会をよりよくするというミッションをビジネスを通じて持続的に達成するために、社会性と収益性の両方を眼差す新規事業部に所属し、主に二つの事業の責任者を務めています。
一つ目は外国にルーツを持つ子ども向けの教育支援事業です。在留資格の多様化を背景に、両親もしくは片方の親が外国籍という子どもが増えていますが、日本語能力が高くないために、学校の授業についていけないケースが発生しています。ビジネスを通してこの課題を解決していこうと事業を開始しています。
二つ目は、高校生を対象とする社会課題解決型人材の育成事業です。SDGsが取りざたされていますが、社会課題を大枠でつかむとその解決策も漠然としたものになってしまいますので、課題の現場や困りごとを持つ個に焦点を当てたプログラムを展開しています。
このような仕事を進める際に、重要なことは目の前の課題の裏側にある制度や価値観、仕組みなどにも目を向けることです。誰も特定の「問題」を起こそうと思って、その「問題」が起こっているわけではありません。複雑に絡み合って目の前に現れる社会課題をミクロ、マクロの視点で認識し、そのボトルネックとなっている事柄に対して事業を企画し、持続的に解決ができるようにビジネスとして展開するという発想は、本コースでの経験が生きている部分です。
本コースを志す方には、先々のキャリアの一部としての長期的な視点と併せて大学院での生活や研究自体にも喜びを見出す視点を持っていただきたいと思います。国際協力の世界に飛び込むためには経験、スキル、資格を首尾よく手に入れる必要がありますが、それとプロセス自体に愉悦を感じたり、学びに満ちあふれたり、という生活を送っていただきたいです。「インターンや協力隊に参加せねばならない」「研究も同時並行で」「修士論文も進めて」「語学もやらなくては」と、私自身も目の前のことに追われがちでしたが、手段としての側面と目的としての側面の両方を満たしてほしいと思っています。